総経費率0.07%でも費用は0.085%|除外される3つの費用
本記事は情報提供を目的とした解説であり、特定の投資手法・金融商品の購入を勧誘するものではありません。運用報告書の数値は、各資料を2026年10月4日に取得して確認したもので、過去の一期間の実績です。将来の費用や運用成果を示すものではありません。投資信託は値動きのある商品で、元本割れとなる可能性があります。最終的な投資判断はご自身の責任でお願いします。
結論から言うと、運用報告書の総経費率は、投資家が負担した費用の全部ではありません。資産運用業協会の運用報告書に関する規則が、募集手数料・売買委託手数料・有価証券取引税の3つを原則として計算から外すと定めているからです。実際に、eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)の第8期(2025年4月26日〜2026年4月27日)の交付運用報告書を開くと、総経費率は0.07%、同じ報告書の1万口当たりの費用明細の合計は0.085%でした。この差がどこから来て、FIRE資産の規模でいくらになるのかを数字で追います。

総経費率の計算式は、協会の規則で決まっています
当期中の運用・管理にかかった費用の総額を、期中の平均受益権口数に期中の平均基準価額(1口当たり)を掛けた数で割った比率です。年率に換算し、小数点以下第2位未満を四捨五入して表示します。資産運用業協会「投資信託及び投資法人に係る運用報告書等に関する規則」が、交付運用報告書の参考情報としてこの表示を求めています。私募投資信託では任意です。
分子の「費用の総額」には、規則の本文に括弧書きが付いています。原則として、募集手数料、売買委託手数料及び有価証券取引税を除く。読み飛ばしやすい一文ですが、ここが今回の話のすべてです。
除かれる3つの費用は何ですか?
買うときに販売会社へ払う手数料と、ファンドが中で株を売り買いするときにかかる手数料と税金です。性質がまったく違うので、表で分けます。
| 費用 | 誰に・何のために払うか | 第8期の実額 |
|---|---|---|
| 募集手数料 | 購入時に販売会社へ。ファンドの外で払うため費用明細にも出ない | 記載なし |
| 売買委託手数料 | 組入れ資産を売買するとき証券会社等へ | 1円(0.003%) |
| 有価証券取引税 | 有価証券の取引のたびに発生する税金 | 3円(0.011%) |
このうち売買委託手数料と有価証券取引税は、基準価額の中から静かに引かれています。口座の取引履歴には出てきません。運用報告書の費用明細を開かないかぎり、金額を見る機会がない費用です。

オルカン第8期は、0.07%と0.085%に分かれました
報告書の費用明細を上から順に足すと、差の出どころが見えます。期中の平均基準価額は30,894円でした。
| 項目 | 金額 | 比率 | 総経費率に入るか |
|---|---|---|---|
| 信託報酬 | 18円 | 0.058% | 入る |
| 売買委託手数料 | 1円 | 0.003% | 除く |
| 有価証券取引税 | 3円 | 0.011% | 除く |
| その他費用 | 4円 | 0.013% | 入る |
| 合計 | 26円 | 0.085% | — |
信託報酬0.058%は、投信会社・販売会社・受託会社に6円ずつ(各0.019%)。その他費用の4円のうち3円は、海外の保管機関に払う保管費用でした。総経費率に入るのは信託報酬とその他費用で、0.058%と0.013%を足すと0.071%。これが四捨五入されて0.07%になります。外れた売買委託手数料0.003%と有価証券取引税0.011%を戻すと、合計の0.085%にそろいます。
FIRE資産で見ると、差はいくらですか?
このファンドの場合、年数千円です。3,000万円を1年間保有したと置くと、総経費率0.07%なら年21,000円、費用明細の合計0.085%なら年25,500円。差は年4,500円で、4%ずつ取り崩す前提の年120万円に対して0.375%にあたります。低コストのインデックス型で、しかも売買の少ない商品なので、取引コストの上乗せは小さく収まっています。
問題は、この差がファンドによって大きく変わることです。売買委託手数料は組入れ資産の入れ替えが多いほど増えますし、有価証券取引税の負担は投資先の国や市場の取引量に左右されます。総経費率だけを並べて比べると、入れ替えの多いファンドほど実際より安く見える。この偏りは、構造として必ず同じ向きに出ます。
もうひとつの募集手数料は、さらに桁が違います。仮に購入時手数料3.3%(税込)の商品に1,000万円を入れれば、それだけで33万円です。これは計算例で、特定の商品の料率ではありません。ただ、総経費率の比較表をいくら眺めても、この33万円は1円も出てこない。購入時手数料は販売会社の画面か交付目論見書で、別に確かめるしかありません。

ファンド・オブ・ファンズは、投資先の経費率を足して表示します
規則は、ファンド・オブ・ファンズについて、総経費率に投資先ファンドの経費率を加えた値を表示するよう求めています。投資先ファンドの1万口当たりの費用明細が取れないときは、投資先にかかった費用の総額を投資先の期中の平均純資産総額で割った比率で代えてもよい、とされています。
ここでも、投資先ファンドの費用から募集手数料・売買委託手数料・有価証券取引税は原則として除きます。外側と内側の両方で同じ3つが抜けている。二重構造の商品ほど、総経費率と実際の負担の距離が開きやすいと考えておくのが安全です。
運用報告書のどこを見ればいいですか?
同じ報告書の2か所を並べるだけです。交付運用報告書は運用会社のサイトで誰でも読めます。
- 1万口当たりの費用明細の「合計」の比率を見る。ファンドの中で実際に引かれたコストの率です。
- 参考情報の総経費率と比べる。差が大きいほど、売買委託手数料と有価証券取引税が重い商品です。
- 購入時手数料を販売会社の画面で確かめる。運用報告書には載らないので、ここだけは別に見ます。
FIREを目指す期間は長いので、比べる指標を1つに決めるなら費用明細の合計を推します。総経費率は横並びで比べやすい一方、取引の多いファンドを有利に見せる方向にずれるからです。どちらの数字も過去の一期間の実績で、次の期に同じになる保証はありません。

よくある質問(FAQ)
- Q. 総経費率とは何ですか?
- 当期中の運用・管理にかかった費用の総額を、期中の平均受益権口数に期中の平均基準価額を掛けた数で割った年率です。資産運用業協会の運用報告書に関する規則で、交付運用報告書の参考情報として表示することになっています。
- Q. 総経費率に含まれない費用は何ですか?
- 原則として、募集手数料・売買委託手数料・有価証券取引税の3つです。規則の本文に、費用の総額からこの3つを除くと明記されています。
- Q. 実際の運用報告書ではどのくらい差がありますか?
- eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)第8期では、総経費率0.07%に対し、1万口当たりの費用明細の合計は0.085%でした。差は売買委託手数料0.003%と有価証券取引税0.011%です。
- Q. ファンド・オブ・ファンズの総経費率はどう計算されますか?
- そのファンドの比率に投資先ファンドの経費率を加えて表示します。投資先の費用明細が取れない場合は、投資先の費用総額を期中の平均純資産総額で割った比率で代えることができます。
- Q. 購入時手数料はどこで確認できますか?
- 交付目論見書に上限が記載され、実際の料率は販売会社ごとに決まります。運用報告書の費用明細には含まれないため、販売会社の画面で確認してください。
- 一般社団法人 資産運用業協会「投資信託及び投資法人に係る運用報告書等に関する規則」:https://www.toushin.or.jp/files/profile/5/jita-reg32.pdf
- 三菱UFJアセットマネジメント「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)交付運用報告書 第8期」:https://www.am.mufg.jp/pdf/kouunyou/253425.pdf
- 金融庁「NISA特設ウェブサイト」:https://www.fsa.go.jp/policy/nisa2/index.html
- 本文の数値は2026年10月4日に上記資料を取得して確認しました。3,000万円・1,000万円の金額は筆者による計算例です。